役員懇親会での朴英雄代表理事の挨拶

 みなさま、こんにちは。 

 本日はこのように、評議員と理事が一堂に会することができましたことを大変うれしく考えております。 

 在日コリアン学生の勉学を手助けしたいという、ささやかな思いから有志が集って設立させた本財団ではありますが、この事業を始めるに際しては、さまざまな不安がありました。

 日本の行政との円滑なコミュニケーション、膨大で複雑な実務処理、特に財団の事業の根幹となる財源の確保等、心配ばかりが先に立ち、はたしてわれわれの力で運営ができるのかと、正直自信はありませんでした。

 しかし、4年が過ぎて、5年目に入ろうとする本財団はこんにち、在日コリアンの高校生・大学生・大学院生に学びのための援助をする「奨学財団」として、在日コリアン学生と日本およびアジア・ヨーロッパの学生たちとの国際交流事業を助成する「財団」として、2020年の東京オリンピックを目指す国家代表選手の育成と、芸術的感覚にすぐれ、国際的に活躍できるトップアーティストの養成を助成する「財団」として、体を成すこととなりました。

 このことは、ここにお集まりのみなさまが、一番喜んでおられることだと考えております。

 歴史の長い在日コリアン学生のための財団は他にもございますが、本財団のように、三つの分野にわたって同時に助成事業を行なう財団はございません。

 とりわけ、本財団が、企業収益等の巨大財源に依拠して運営されているのではなく、純粋に、心ある広範な方々の愛情のこもった募金で運営されていることに、われわれは何ものにも換えがたい誇りを感じているのです。

 このような地道な活動を通じて、本財団の認知度も高まり、4年間の募金総額は 305件、5,441万円にのぼり、そのうち、奨学金は149名に3,120万円を支給いたしました。そして、本年度からは奨学事業とともに、国際交流事業とトップアスリート・トップアーティスト育成事業にも助成を行なうこととなりました。

 このような成果は何よりも、寄付者はもとより、評議員、理事、顧問、事務局のみなさまの献身的な努力によるものであります。

  代表理事として、心より感謝を申し上げます。

 奨学事業につきましては、これまで、受給者と保護者の方々からさまざまな反響が寄せられています。

 大阪の金剛学園や東京、愛知、九州などの朝鮮高校に通う受給者の保護者は、暖かい関心と配慮をもって支援してくれることに対する財団への感謝を、また、受給者も奨学生らしく勉学に励み、社会に貢献できる人材となる決意を述べています。

 保育士志望であったある大学生は、国家試験を全科目パスするための学業には、どうしても必要だと訴えて奨学金の貸与を受け、見事保育士の資格を得ることができました。その後、彼女は奨学金のありがたみを忘れず、感謝のことばとともに、毎月、計画よりも早く返還金を振り込んできております。

 高校3年生のときに奨学金を受け取って勉学に励み、全経簿記1級の資格を取得して朝鮮大学校経営学部に入学した学生、そして大学院生で近年中に博士課程を修了する学生もいます。

 奨学事業を支援してくださる、良心的な日本の方々のご協力に接しながら、在日コリアン学生を取り巻く現状は大変困難ですが、そのような中にも希望の光が射していることを実感いたしました。

 千葉在住の日本の女性は、日本学生支援機構が奨学金を貸与もしてくれないなんて、日本政府の対応はひどすぎる、そのために在日朝鮮学生の中で学費が払えず、学業を中断せざるを得ない学生のいることに胸が痛む、と言いながら、2年前から月末ごとに1万円をご送金くださり、それは今年4月以降も続いております。また、寄宿舎生活をする学生たちのことを気遣い、ドイツのソーセージや米、大根、里芋などの差し入れまでしてくれています。一つのきっかけから在日コリアンの民族教育への理解が深まった例であります。

 東京・目黒在住の80歳を越えた日本の男性は、自分の周りの人々に訴えてカンパを募ってくれ、1年目はそのために、格調高いアピール文まで作成してくれました。そして、毎年ご自身も寄付を続けて下さっています。

 区議を経験されたある日本の方は、本財団の活動趣旨を知って、本人が年に2回、1万円ずつ寄付をし、また、区議時代に親しくされていた方々に訴えて、ある方からは、2回にかけて、計50万円の寄付をいただきました。

 われわれは、まさにこのような方々のあたたかい情に支えられながら、財団の事業を行なえているのです。

 さて、評議員の任期4年を一つの区切りと見るならば、本年度より2018年度までの4年間は、本財団の第二サイクルの期間と見なすことができます。

 今後4年間、われわれを取り巻く環境は良くなるかも知れないし、そうではないかもしれないという、決して予断をゆるさない状況にあります。

 われわれは、日本の社会で不当な差別を受けている在日朝鮮学生への支援活動を、今後も一丸となって力強く推し進めていきたいと考えております。

 「奨学事業」、「国際交流助成事業」、「トップアスリート、トップアーティスト育成助成事業」という、在日朝鮮学生支援の「三本柱」で、今後の中心となる課題は以下のとおりです。

 第一に、奨学事業につきましては、所得200万円前後の家庭の学生をより多く支援していきましょう。

 そのような学生の中には、学びのための条件さえ整えば、日本の社会と在日コリアン社会に寄与し、ひいては世界にはばたける才能と可能性を持った人材も決して少なくはないでしょう。

 第二に、毎年、日本各地で活発に行なわれている朝・日学生間の親善交流事業を積極的に支援していきましょう。

 今年度は、トップアスリート・トップアーティスト育成事業助成とあわせて21の企画および申請団体に、164万円の助成をすることが決定いたしました。

 このことに関してはすでに大きな反響があり、来年度以降はより多くの応募のあることがすでに見込まれています。

 日本と朝鮮半島との間で、未来を担う青少年たちの親善交流が活性化し、それが日朝国交正常化へとつながるようなものであれば、どんなにすばらしいことでしょうか。

 そのような「夢」をもって、この事業を推進していきましょう。

 第三に、2020年の東京オリンピックへの参加を目指す、国家代表選手クラスのアスリートを育成していくことに大きな力を注ぎましょう。

 サッカーや空手をはじめ、可能性のある競技、種目は確実にございます。

 また、民族的アイデンティティを生かし、世界を舞台にして活躍できるトップアーティストの育成にも積極的な支援をしていきましょう。

 在日朝鮮学生のための、以上のような事業を行なうためには、しっかりとした財政的な裏付けが必要です。

 ここにいるみんなで、恒久的な財源確保のための知恵を集めてみましょう。

  財源確保のために何よりも重要なことが、寄付者の裾野をひろげていくことです。

 過去4年間の寄付件数が305件でありますが、今後4年間にこの数を倍増させるため、ここにいらっしゃるみなさまが年間2~3件以上の寄付者、もしくは特定寄付者を募ることを目標としてはいかがでしょうか。

 問題提起としては、最近、高齢者の中に、ご自身の財産を社会に還元する目的で寄付を行ない、社会的弱者の手助けをしたいと希望する方々が増えていると聞いておりますので、そのような方に本財団の趣旨をお知らせし、ご協力を仰げればありがたいと思います。

 70年の歴史を誇る在日コリアンの民族教育については、母国以外の国で、4,5世に至るまで、正規の体系を備えて教育を行ない続けており、世界にその類例の見られないことから、ユネスコの世界文化遺産として登録し、その保存につとめるべきではないかという声まであります。

 心ある方々はもちろん、著名な方々にも、ノーブレス・オブリージュの精神で、意欲的に本財団へのご協力をお願いするのも一つの方法ではないでしょうか。

 本日は会の終わりまで、どうか、みなさまの多様で建設的なご意見をいただけますことをお願い申し上げながら、挨拶といたします。